ミザゴ(鶚)

 『詩経』に「關關雎鳩、在河之洲」とあるが、この雎鳩しょうおうとはミザゴのことである。その名前には優しそうな響きがあるが、実際はなかなかの猛禽で、空中で鳥を捕らえる鷹と、水中から魚を捕らえるミサゴはよく対比されて語られることがある。

 『漢書』鄒陽伝には「鷙鳥絫百,不如一鶚」( 猛禽をいくら集めても、ミサゴの一羽には及ばない:どれだけ無能な者がいくら集まっても、一人の有能な者には及ばないという喩えである )とある。また韓愈の『夜會聯句』には「推選閱群材,薦延搜一」の句があるが、これはミサゴは鳥類の中でも俊敏で抜群のものであるとされているからである。

 『事物異名考』には「青鵬は遼東に生息しているけど、最も素早いものを海東青カイトウセイという」とあり、この海東青というのはミサゴの別名のことである。

 『本草綱目』では、沸波ふつはと言われているが、それはこの鳥が水上を飛行して、その羽風で魚を水上に引き上げるという姿が由来である。トップの写真は正にその瞬間をとらえたものである。

 また『日本書記』には「至上總國、從海路渡淡水門。是時、聞覺賀鳥之聲」( 現在の千葉の、海路(ウミツジ)から淡水門(アワノミナト=東京湾浦賀水道か房総半島の館山湾)を進んでいると、このときに覺賀鳥(カクカノトリ)の声を聞こえた )とあるが、この覺賀鳥とはミサゴのことである。

 

ミザゴの味

 ミサゴの料理方法は、皮をはいで、肉を油で炒めておいてから、とろ火で煮るのが良いとされている。こうして料理されたミサゴはカワウ(川鵜)などよりも味が良いとされている。中国の『食物本草』には「ミサゴの肉は生臭さがあり食べるべきではない」とあるがこれが正しいのかは疑問である。なぜならば『天中記』にはミサゴを炙ったものを熊掌や豹胎と並べて、海北八珍のひとつに挙げているからである。
ミサゴを炙ったものが 八珍 の珍味に値するかどうかは分からないが、ミサゴ寿司と呼ばれている、ミサゴが作った魚寿司は確かに美味なものとして評されている。

 

ミザゴの生態

 ミサゴは岩の上から餌を狙って、水中に素早く飛び込み、電光石火の勢いで水上に浮き上がり、一撃で魚の肝臓をえぐって高々と吊り下げて巣まで運ぶ。餌を食べて満腹になると、尿をかけて獲物を貯蔵するという習性がある。
 この貯蔵した魚をミサゴ寿司と言う。ミサゴの尿には塩分があり、酸味を帯びているので腐敗を防止する効果がある。巣の多くは断崖絶壁にあるので、巣に近づくには縄梯子を使うしかなく、いわゆる「赤壁の賦」にある棲鶻の危巣を登るという危険を冒さなければならない。

 ミサゴの貯蔵してあるのが雑魚であれば特に価値は無いが、季節も良く、それが鮎の寿司であれば大変貴重なものになる。それは鮎の内臓の苦ウルカとミサゴの尿の作用によって、内側も外側も防腐されており、その味わいは人間の作るものとは異なった美味さがあるらしい。

【 備考 】 +
ミサゴずしについては種々の記録がある。

伊勢貞丈の随筆の『赤鳥巻』には、「西海にある崖の上の窪地に時折、ミサゴ鮓がある。海上の人はこれを探り当てて珍味としている。これは海鳥が小魚を岩窪に蓄えて、潮に漬けられて自然に熟したものであると言われている。また他説では、ミサゴ鮓とは、ミサゴの肉で作った鮓の事であるとされているが、この両方の説は誤りである。『本朝食鑑』には、ミサゴは水上を飛んで魚をと捕らえて食べ、また石のゴロゴロしている目立たない陰の場所に魚を多く積み重ねて置おく。これをミサゴ鮓と言い、冬期の貯えの為にこれを行う。もし人が、重ねてある下の方の魚を取ると、後から新しく魚を運んできてまた積み重ね、もし積み上げた上から魚を取ると、もう魚を運んで来なくなってしまう。また樹木の茂った所に柴を敷いて、その上に魚を積み上げるミサゴもいる。これらの鮓は時間が経っても腐ることはなく、人が取って賞味すると」書かれている。
 ミサゴ寿司の探し出すのは先述したように、非常に困難であり、これを入手することが簡単でない。そこで鮎のミサゴ寿司を、人工で作る工夫が行われるようになっている。それが鮎の青竹鮓である。

 ミサゴ寿司の鮎は雨天の多かった年、または洪水の時に捕獲されたものは良くない。雨の多い年は鮎の餌である苔の発育が悪いためである。また洪水の時は石苔は流されてしまい餌が少なくなる為、鮎はその代わりに砂を食べることがある。

 よって、ミサゴ寿司のための鮎を捕らえるには、晴天が続いた後か、または干ばつで水量が減り、かつ水が澄んでいる時に行うのが良い。雨天が続いて水が濁っているときは、ミサゴの鮎を獲るべきではない。このようにミサゴの獲った鮎は、品質の良いものに限って使う方が良いだろう。

余談で

 墜落で問題視されている航空機「オスプレイ:Osprey」とは、ミサゴの事である。オスプレイは、ヘリコプターの垂直離着陸能力を持ちながら長距離飛行移動が可能なので、ホバリングするミサゴがイメージされたのではないかと思われる。

 航空機のなかでもオスプレイはかなり特殊で高い技術によってこうした飛行を可能にしているが、ミサゴもそれと同じくかなり高い飛行能力がある。そういう意味では航空機オスプレイはなかなかの良いネーミングなのかもしれない。